仏像修理 釈迦如来坐像
釈迦如来坐像 (平安初期) 桂材 一木作り    新潟県長岡市指定文化財  

旧、三島町、観音寺の地域、現在の法華寺近くの釈迦堂に祭られてあった。

造仏年代は不明であるが、旧,三島町の調査で平安時代初期と推定。木造、一木作りの釈迦如来坐像としては新潟県では最も古い仏像とされている。

正面を見て、羅髪の生え際が直線的で丸みをおびておらず、大きい耳の形は、奈良時代の仏像を真似て作られた可能性があると思われる。

当時この地には桂の木が豊富にあったらしく寛益寺の十二神将も桂材で造られており、この地で造仏があったと思う。この地に仏師が居たのか奈良から仏師が来たのかは、分からないが優秀な仏師の造りである。

顔の傷みはひどく目、鼻、口の形がよく分からないが、リアルな美男子と感じる様相。

前方の羅髪は彫り出しであるが、後方は作られていない。

背面の後頭部から下まで中刳りをするための空きがある。

底蓋は以前より無く、足と胴体の分裂時には無くなっていたと思う、分裂時期か江戸時代以前、かなり前の時期であると思う。

胴体、底部分の削れた部分は約5センチ以上。胴体と足の接続面は合わない。足下(底)の削れた部分は約3センチ以上。

表面の劣化はひどく持てば崩れる。汚れもひどく罅割れも多い。

お堂、倒壊による破壊は像の胴体の中心が割れ、首との3分割にしてしまったが材が桂であったため割れ面は凹凸や(笹くれ)が無く素直で接続は容易。

修理方法

長期保存を目的とした現状を維持ではあるが欠損と罅割れの修理を行い災害前の状態に戻す。

腕目、鼻、口、膝前の皺(ドレープ)の復元はしない。

材の補強としてアクリル溶液(10パーセント)を数回注入したが効果の無く強度の必要な個所はエポキシ樹脂を接着剤として内部を抉り出して桧を埋めた。

欠損と虫穴とひび割れは漆を接着剤として、主に埋木で修理することにしたが小さい欠損は漆木屎で補修した。

胴体と首の分裂はエポキシ樹脂で補修。

水腐りの大きく深い部分はエポキシ樹脂を接着剤として桂材又は桧材で埋め木をした。

膝前、衣の襞の復元はしないが像の美しさが必要と考え補強を兼ね桂材を添えることにした。

中繰りの穴蓋は紛失のため、エポキシ樹脂を接着剤として桂材で蓋をした。

胴体の下(底)削れた部分はエポキシを接着剤として桂材で補足、約5センチ底上げをした。

足の下はエポキシを接着剤として桂材で約1センチから3センチの底上げをした。

胴体と足は互いの接続面は桂材の補強で、臍とエポキシの使用で接着した。

胴体と足の接続ズレ防止のための臍穴の補強にケヤキの古材を埋め込んだ。

色付けに付いては時の経過による枯れの美しさを損なわないよう極力、修理個所のみとした。

埃の古色は行わない。


使用材料
桂/桧/白樺/漆/エポキシ樹脂/アクリル樹脂(溶液)/アクリル絵の具/木粉/小麦粉

材料説明

白樺(ツマヨウジ)は小さい虫穴の栓。
漆とエポキシ樹脂/木粉/小麦粉は接着剤や木屎の材料またはパテの材料として使用する。
アクリル樹脂(溶液)は材の補強で使用。
木粉/小麦粉は漆木屎やパテの材料。

 2010年3月9日更新




頭部転回


これより汚れ落としをする。
目周辺に突き傷のような跡がある、木で埋める
修理完了
今後劣化に至らない傷は
そのままで手をつけない。

埋木をした。

 像内部に風を通すわけにはいかない。



お堂、倒壊による破壊は胴体と頭部3つに分裂。
桧であれば大変な事ではあるが桂材であることで接続は容易である。



釈迦如来座像
修理完了


穴栓の紹介。
木栓が必ずしも良いとは言えない、木地と穴の状態による。強く打ち込めば周辺を傷める事になる。
小さい木槌で叩き込むと良いが作らねばなるまい。
今は極小の金槌を使ってます、しかしまだ重すぎます。
木槌を作る事にします。

釈迦如来写真(大)

ハイス鋼のカナノコで刀を作りました。
これは差し込んだ木栓のはみ出した部分をカットする刃物。左右に動かしてカットすることで木栓は折れません。
木栓用木槌。



ホームセンターで買ったヤスリ。
叩いて少々薄くして、焼入れして作ったひび割れ内部の掃除用具、切れも良い。
ハイス鋼のカナノコも加工して刀にすると良い。
貞三の刀もいいです(薄い諸刃の刀)。
私は鉄を叩いて刃物作りが好き、私の先祖は百済のタタラ師だったそうな(村の言い伝え)。

修理完了


白太部分の腐れ。
足との接続面。

どこかのテレビ取材で来たディレクターのお兄さんに「拘りは」と、聞かれた時、言葉が無く困った。

対象となる仏像の傷みを客観的にとらえ、すべき当たり前の事を真面目に行えばいい。
時間が掛かるだけ。
私は創作作家ではない。
拘りなどない。

修理にさほどの技術は必要ない。
出来るか、出来ないか、ではなく、するか、しないか、が重要なことだと思う。修理において拘りが思いつかない。

私に拘りが無いのは経験不足、知識の不足が問題なのかも。

取材の時以来(拘り)が気になってます。


 →

右脇腹
虫穴を漆で補強後木栓で穴埋。
木栓はカナノコで造った刃物で切る。
サンドペーパーは使えない。

底部分。
約5cmの上底が必要。


アクリル樹脂注入は数回繰り返し行った。
膝に雨水が溜まっていたらしい。
屋外同然のお堂に祭られていたため劣化状態はひどく胴体と足が外れて数百年経っていたのではないかと思う。
膝前の衣の復元はしないが補強と美観の為、添え木をする。
修理において美観にも気を配る必要があると思います。

 



樹脂注入後割れの中のほこりを掃除(砂埃が多い)。埋め木の準備。ひび割れに木を埋める事により像生地表面の緊張を取り戻しその周辺のひび割れが以後、起こる事をなくす。

罅割れは深く、分裂の危険がある。

足の下や穴周辺、触れると崩れる。

穴の内部の補強と調整。


桂材で補強。

修理完了




水腐れ部分の除去、中の様子。
虫穴とひび割れがいっぱい。
膝に溜まった雨水の通り道。




木の強度は全くなく粉の様。
アクリル樹脂注入効果の無い部分。
膝に溜まった雨水の通り道。


臍穴の準備。

胴体への接続準備。
補強のため樹脂注入と桧を埋め込む。

奥が広いので2回から3回に分けて桧を埋め込む。

角のすり減った部分は木で修理。

腐った白太の部分の補修。

木の色は白いが桂材。

本体の材に強度が無いのでケヤキを
埋めた。これに臍穴を作る。

足の接続準備。
臍穴を作る位置に約百年以上は経つケヤキの古材を埋め込む。


接続面の補強と調整。
これより接続面のすり合わせ。
もっといい方法ないかな。



修理完了。
漆塗


圧着時 ずれ止めの角臍もエポキシ樹脂で
接着した
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