聞天像 文化財修理報告書 新潟県指定文化財
                  真言宗 豊山派 醫王山 遍照院 寛益寺    新潟県長岡市逆谷

 多聞天像 藤原時代 栃の木材  約110cm  両腕、両手を接ぐ一木作り 
 
概要と像の状態
○藤原時代特有の簡素で包容さを感じる像形をしている。

○使用材の栃の木は本来柔らかく腐りやすい木であるが像本体の表面より約く4cm奥(内部)は木としての強度が充分あった。

○過去、鎌倉時代と大正時代、二度の修理がなされている様だ(県の調査と台座内部の墨書き)。 

○寛益寺蔵四天王の内二体は鎌倉時代の造仏 (広目天像、持国天像)である事から察すると鎌倉時代に部材 の差し替えと転用があったと思える。

○藤原時代造仏の今はない広目天像の右腕(肩より手首)が代用され、 左腕、肩より肘(ヒバ材)はこの多聞天像のために補足新調されたのではなく別の像の腕が代用された可能性がある。

○宝塔を持つ手は檜材、鎌倉時代の補足新調であろう、中指、薬指は欠損、紛失。
○鎌倉時代、広目天の腕の代用は大幅に手の位置を下げることになり右手首の角度調整のため手首に檜の板を挿む補修をなされる事になったと思える。

○大正時代の修理は台座新調の折、外れた両腕を丸釘で打ち付けた応急的な処置であった。

○両腕接続部分周辺、下地の胡粉には麻と思える繊維状の物が混ざっている

○鎌倉時代の仕上げ修理は下地に漆、次に胡粉、最後に濃い緑色の岩絵の具一色であろう。

○下地の漆は木の保護に役立っている、下地の漆がない生地面は風化している。(えぐれが生じている)

○下半身や部材の小さい腕、と手は虫菌と釘の酸化による劣化が特に大きい。

○表面上に見える虫穴の数は邪鬼と合わせて約15,000個、害虫はケブカシバンムシ、菌は褐色腐朽菌。

○木の中に残る釘は形を留めず木に溶け込みまた腐食によって木を大きくえぐっている。

○深い鑿の刃跡が10個以上残っている、刃幅約五分〜一寸二分、薄刃、浅丸、刃跡の場所や方向性に一貫性はなく乱雑で荒っぽい。鑿跡は作者の心を知るひとつの手がかり。

修理材料
檜・白樺(ツマヨウジ削りなおして使用)生漆・テレピン油・膠・杜の粉・チタン粉末・顔料・松煤・エタノール・アセン・パラロイド

修理方法
○現状を維持の修理。本体における復元は手の指、劣化や欠損部分は補強修理、 損傷のない生地表面を汚すことのない様また像の美観も損ねぬ様、必要最小限の修理です。

○打ち込まれた釘は全て取り省いた。

○殺虫処置は燻蒸と薬剤にて行った。

○エタノールによる殺菌の後アクリル樹脂注入(パラロイド溶液、約10%を2回から4回)溢れた樹脂はふき取る 。
○木の接着は県側の要請により漆または膠とした。

○欠損部分や虫穴、釘穴は極力、木材での補修とするが場所や形によっては漆木屎を使用。

○アクリル樹脂乾燥後、埋め木のための生地表面補強は生漆または錆漆を注入した。 (テレピン油で薄めて使用もあった)

○エタノールとアクリル溶液の注入は表面のひび割れを起こしたので錆漆で補修をした。

○漆の乾燥後虫穴を木栓でふさぐ。欠損部分は密着度を高めるため木と木のすり合わせによって接着面を作る。

○木栓の切断後、隙間に錆漆を埋め表面を整え古色仕上げをした。今回の仕上げは色漆で行った。

補足修理箇所
○右腕上腕部本体との接続部分、(代用の腕は短くバランスが悪いため)

○右手首間接部分角度調整のため檜板を挿んだ。

○左手中指と薬指。(檜)

○宝塔(新調)

材の調査(本体主要部分・害虫調査)
奈良県森林技術センター


お寺様への仏像拝観時にはお心ずかいよろしくお願いいたします。  伊谷
修理完了

修理前顔 漆下地のない部分は風化でえぐれている。
栃の木は柔らかく腐りやすい、充分漆補強をする必要がある。
修理完了
左腕
修理前 修理完了

修理完了
修理前 左腕 肩から肘までは後の修理時、他の仏像の
腕を代用されている。新補材ではない。(ヒバ材) 

白色の下地(胡粉)に繊維状の物が混ざっている
胡粉は後の修理によるもの。
鉄楔と丸釘によって接続されているが双方修理時期が同じではない。 胴体は栃材、肩はヒバ材である。

修理完了




修理前

本体左肩の接続のための臍穴を檜と漆で補強した。
膠で左肘の接着。

隠れる部分ではあるが穴、全てを埋め木をした。
 

左腕の接続は膠で接着するが臍と臍穴は膠で接着しない

代用の左腕はヒバ材、臍穴はない。(ヒバ、檜より硬く黄色い、
ショウノウのような臭いがする)、

臍穴を作らなければならない。


手は後の修理時の補足(檜材)
肘の接続後手首の接続、腕の材が脆いので臍は長めにした。

肘より手首。修理前
肘より手首は藤原時代制作時当初のもの。
肘より先の部材は小さい故に虫食いの損傷が大きく木としての強度はない。脆く崩れやすい。
樹脂での補強は念をいれて。

角臍で接続。臍穴奥行き2センチ

接続後、縁周りの隙間に錆漆を塗り込む。


衣の先は後の修理時の補足(檜材)
虫食いと埋め木の様子、
出来うる限り木による修理を行う。
仕上げの色合わせが楽に出来る。




臍穴のずれを修正するためいったん、元あったの穴を埋める。
(臍穴のあけ直し)


両腕の接着前。



修理前

臍穴のずれ修正のためいったんもとの穴を埋める。 修理完了

修理前 肩より手首までは別の四天王の腕が代用されている。
臍穴ずれており本体とのバランスが悪い、少々腕が短く感じる。


修理完了


樹脂注入後


代用の腕は少々短いと思えるため肩の接続位置に檜を補足。

樹脂注入後

埋木途中

修理前

修理前
○虫菌害と後の修理の釘による損傷がひどい。
(害虫はケブカシバンムシ・菌は褐色腐朽菌)
○木としての強度はなく軟らかく脆い
○小指の付根の釘は酸化がひどく形を留めず木に溶け込みその周辺を大きくえぐっている。
○竹釘が一本打ってあるが木のゆるみで効果はなく接続部分は脆く外れた。竹釘は傷みはなく使用可。)
○後の修理時、繊維状の物が混ざる胡粉らしき下地がある。

割れの隙間に檜をはさむ

割れの隙間に檜をはさむ。

割れた面に観える黒色部分は膠

はさむ木の密着度を高めるための接着面のすり合わせ。


修理完了

修理前  時の経過による劣化と褐色腐朽菌


修理前 鑿の刃跡

足の付け根(股)部分虫食いや割れはあるものの制作時の状態がほぼ完全に残っている。

右足首
修理前  時の経過による劣化と褐色腐朽菌

肘が当たるので削り取られている。
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